夏休みに日本中を騒がせた東京五輪エンブレム問題。
最終的には佐野研二郎氏が考案したエンブレムが白紙撤回されました。
そして改めて、一般公募という形で
エンブレムデザイン案の募集が始まっています。応募期日は12月7日。
* * *
私のブログの順番が今頃回ってきましたので、
とうに旬は過ぎましたが、この問題の話をしてみたいと思います。
例によって長いですよ。。。 いつも以上に長いです。
* * *
私はこの問題、佐野氏の案が発表されてから気にしておりましたが、
マスコミやネットで盛んに取り上げられていた盗用や無断流用の話題は、
それほど興味がありませんでした。
(どのように決着するかというゴシップ的興味はもちろんありましたが)
私は佐野氏のエンブレムを初めて見た時、
=====================
「これは、五輪エンブレムではない!」
=====================
と痛烈に感じました。しかし当初はそれが何故そう思うのか、
中々言葉に出来ませんでした。でも「何か違う・・・」という想いが、
頭から離れませんでした。そう、五輪エンブレムの話題について、
私は、デザインそのものに対する興味で追っていました。
(まさか、撤回されるとは思っていませんでしたが・・・)
その後、ご存知の通り盗用疑惑によって世間で注目され、
新国立競技場問題と同様に五輪関連問題が再び議論となったわけです。
盗用疑惑の対象となったベルギーの劇場ロゴの件に関していえば、
私は「盗用でない」と思っていました。今でもそうです。
盗用か否かという興味は、私の中ではこれで終了でした。ただし、
納得いかないデザインが世間で採り上げられたのは
この疑惑のおかげでしょう。同業種人としては複雑な面もありますが。
「五輪エンブレムデザインに必要なものは何か?」
本来、こういったデザインそのものへの議論こそ世間でもっと
採り上げられてほしいのですが、悲しいかなデザインとは
主観的かつ感覚的なものであり、客観的な文脈にしにくいものなので、
マスコミで採り上げにくいというのは仕方ないところではあります。
* * *
エンブレムが発表された7月末に私が
「これは五輪エンブレムではない」と感じ、それをすぐに
言葉に出来なかったと先ほど書きました。
その後、世間の様々な声を聞き、有志の非公式代案が
流れてくるの見るにつけ、少しずつ頭の中が整理されてきて、
8月のお盆頃にははっきりと言葉に出来ました。
端的に言うと、
=====================
・静的すぎること。
・気取りすぎていること。権威的すぎること。
・「T」をモチーフとしてることへの疑問。
=====================
というのが、自分が「違う」と思った要素でした。
つまり、私が思っている「五輪エンブレム」の基本要素とは、
=====================
・スポーツの躍動感。
・4年に一度それも1ヶ月だけの祝祭感
・世界の人に伝達可能な視覚的な伝達性、普遍性
=====================
ということです。これが佐野氏のエンブレムには無いと
思ったから、「五輪エンブレムではない」と感じたのです。
一言で言うなら、佐野氏のロゴは
「公的機関や企業のロゴ」だと感じたのです。
それらのロゴは、「静的」「権威的」「恒久性」が大事です。
でも、五輪エンブレムが基本要素とすべきテーマはそれではありません。
私はデザインの専門というよりは、コンセプトを創る側なので、
佐野氏が会見で発表していたコンセプトの話はよく分かりました。
しかし思ったわけです。
「コンセプトを押し付けすぎているデザイン」だと。
『T』をモチーフとしていること」がH因と先に記しました。
なぜそれがいけないのか? それは、
=====================
『T』は文字であり、それ以上のことは何も伝えていない。
つまり、何の『T』なのかは、説明されない限り、
世界中の人にはわからないから。デザインだけで伝わらないから。
=====================
この「文字をモチーフ」とする話、一般のロゴやエンブレム制作では
よくある手法なんです。商業デザインである以上、
クライアントへの発表の場があって、デザインに内包された意味や想いを
その場で説明できて、その説明を合わせてデザインに共感してもらえれば
OKなわけです。だから、一般的な業務の現場では「アリ」なんです。
でも、五輪エンブレムはそうはいきません。
佐野氏が話した「T」に込めた意味「Tokyo、Team、Tomorrow」、
これが説明なしに、外国の人が見て、視覚的に伝わっていれば
OKだと思いますが、どう思いますか?
「T」だけを見てイメージすることは、人それぞれ違うと思います。
まあ、「TOKYO」の「T」とは気づくと思いますが、それだけしか
気づかれないために、「安易→ダサい」という印象を与えてしまったら、
逆効果です。だから五輪エンブレムの「文字のモチーフ」は私は疑問です。
あと、コンセプトにこだわる側にいる私が言うのもアレですが、
どんなに共感できる素晴らしいコンセプトが秘められていようと、
ロゴやエンブレムは、「パッと見」がすべてです。
「パっと見」で見た人の心を捕まえられなければ、
秘められたコンセプトなんて無意味です。
特に、五輪エンブレムという、ものすごく公共性が高く、
世界規模のとてつもない普遍性が求められるデザインであれば
なおさらそうです。
悲しいですが・・・
* * *
色々思うに、佐野氏が誰を見てこのデザインをしたのか?
と考えてしまいました。私の想像ですが、普段手がけられている仕事と
同じようにクライアントだけを見て制作されたのではないでしょうか。
そう、一般業界の仕事をしている我々と同じように。
(「クライアントだけを見て」というのは、もちろんコミュケートする
ターゲットを見て効果的なデザインを考えるわけですが、最終的には
クライアントの好みや要望に合うものを出せれば、商業デザイン業務
としては正しいという意味です)
この五輪エンブレムでいう「クライアント」は、
直接的には五輪組織委員会であり、間接的には広告代理店やスポンサーです。
佐野氏は、その人たちだけを見すぎたのではないかと私は感じました。
つまり、忠実にいつもどおり仕事をされたのだと思います。
その「クライアント」の方々にとっては、佐野氏のエンブレムは
評価の高いものでした。もちろん「T」に込めた意味にも共感し、
左上と右下のRのラインに1964年エンブレムへのリスペクトが
仕込まれているというのも、「お上」の心をくすぐったことでしょう。
(ちなみに、そのリスペクトの仕掛けはH案にはありませんでした)
さらに評価されたのが、商業展開のしやすさ。
佐野氏のエンブレムはデザイン構造的には「モジュール」という
手法を採用して構成された、非常に考えられたデザインなんです。
要素をバラバラにして、パーツごとで展開も出来るというものです。
だが、まとめると、「威厳があってよい」「商売しやすい」という点が
評価ポイントだっとというわけです。
言いたいことは、わかりますよね?
* * *
この話題は話したいことが多すぎました。
まだまだ色々伝えたい、説明したいことはありますが、
今書いてきたテキストを振り返ると相当長くなっているので、
ここら辺でまとめに入ります。
つまり、今改めて募集しているわけですよ、五輪エンブレムを。
そしてまた、選ぶわけです。そしてまた、それを我々がとやかく、
あーでもないこーでもないと捲くし立てる展開がまた来るわけですよ。
その時に、「五輪エンブレムとは何?、その上で、日本らしさとは何?」
ということを、みんなしっかりと共通認識を持っていた方が
いいんじゃないかと思いまして、旬をすぎたこの時期に、
改めてこの話題をしたわけです。
ちなみに、応募要項の「キーワード」欄に
記載されていることは下記の通りです。
=====================
東京五輪の新エンブレム応募要項の骨子
■キーワード
「スポーツの力」
「日本らしさ・東京らしさ」
「世界の平和」
「自己ベスト・一生懸命」
「インクルージョン(一体性)」
「革新性」
「未来志向」
「復興」
=====================
うん、要素はいいと思います。
「スポーツの力」「世界の平和」あたりは共通事項ですね。
そして、ここに入れる必要はないですが、先ほど記した、
「4年に一度の世界の祝祭」という基本要素は重要です。
これが「視覚的に」「瞬間的に」「説明要らずで」
感覚的にでも世界の人に伝わるものが出来るといいですね。
どんな案が出てくるか楽しみです。
長文お付き合いいただき、ありがとうございました。
トラックバック(0)
このブログ記事を参照しているブログ一覧: 五輪エンブレム問題を今さら語る
このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.interbrains.com/cmt/mt-tb.cgi/417